C&D エピファニー

今回紹介する煙草はコーネルディールのエピファニー。

エピファニーとは、しばしば「閃き」という意味にも使われる言葉で、キリスト教の公現祭(1月6日)を表す。この日は、クリスマスから数えて丁度12日目にあたり、お祭り気分の年末と正月が過ぎて、日常に戻る入り口の日でもある。

文学上の用法では、平凡な出来事の中にその事柄・人物などの本質が姿を現す瞬間を象徴的に描写することも意味するらしい。転じて「常喫」という意味だと解釈したが、些か曲解であろうか。

フロッグ・モートンが手に入れられなくなったせいもあるが、最近また好みの煙草を模索しつつある。そうでなくても、一つの銘柄にそれほど執着しない方なので、色々と食指が動いてしまう性格なのだが、私の中で永遠のテーマになっている煙草のブレンドにおける理念と言うか至高概念というか、ある種の幻想的な物語が存在する。それは…

「ラタキアを巧く使った着香煙草」である。

バルカン、所謂50%のラタキアを含んだブレンドには、あまり風情を感じない。すぐに飽きてしまい、ダンヒルのダーバーなどは一年近く50グラム缶が減らず、カラカラに乾燥したものを2度ほど加湿して、やっとこさっとこ空にした。パウチものでは、ラールセンのトゥルー・デライトあたりが安くて良いのだが、これはこれで今度はラタキアが物足りない。ガレリアのフォックス・アンド・ハウンドはそこそこに嵌って何度も買って吸っていたのだが、結局、ラタキア慣れしてしまうと、何だか着香の方が味気ない。

実はパウチもので一番嵌ったのがフォン・エイケンのプライベート・クラブなのだが、現在は製造していないようで、入手できなくなってしまった。

ラタキアは多すぎず、少なすぎず、フレーバーを中心に楽しみながらアクセントとして使っている。そんな煙草が私の理想である。そういう意味で、フロッグ・モートンは至高だったのである。割合の分量で言えば、オンザバイユーやアクロスザポンドでは多過ぎ、オンザタウンでは少な過ぎた。セラーに至っては着香が強すぎてラタキアが死んでいる。レギュラーのフロッグ・モートンは絶妙なバランスだったと言って良い。ラタキアが活き活きと前に出ているのに、スムースで飽きが来ない。

今は亡き煙草の話をしても詮方無いので、このエピファニーに話を戻そう。開缶したのは町田の駅近くにある「宮越屋珈琲店」。ちょっと雰囲気のある良いお店だ。2階の窓際は広い喫煙席で、テーブルも大きく、ゆったりとしている。ここのフレンチ・ブレンドは私の知る限り町田界隈では1番美味しい珈琲である。

チョコレート・ブラウニーを食べながら、午後のひと時をゆっくりと過ごす。

喫煙後の感想から言えば、旨いのだが、私には少し甘すぎる。

フロッグ・モートンズセラーと同様、着香がラタキアの風味と喧嘩しているように思う。ある種のラタキア感は強いので、含有量はそれほど少なくないのかも知れないが、私はもう少しラタキアっぽいのが好きだ。

おや?この感想、何となく覚えが…、と過去のブログを探ってみると、実はこの煙草とほぼ同じようなブレンドを、私は過去に体験していた事が判明した。4ノギンズのハウス・ブレンド「ペインター・ヒル」である。2012年、7年も前の事だ。

言われてみれば、この味わいは、当時4ノギンズのハウスブレンドを片っ端から試していて、イングリッシュミクスチャの中ではオウルズ・ヘッドとチップマン・ヒルをそこそこに気に入って、これについてはラタキアが物足りないと感じていたのだった。そうだ、思い出した。

かのアルベルト・アインシュタインが常喫していたフィリップ・モリス社製パイプ煙草「レベレーション」の復刻版が、このエピファニーやペインター・ヒルだったのだ。

このレベレーションという煙草が本当にエピファニーと同じような味わいだったのか否かは、レベレーションが手に入らない今となっては確かめようもない。しかし、フィリップ・モリス社の古い広告にこんなのを見つけた。

なんと、かの「ボンド・ストリート」と並んで宣伝されているのだ。ボンド・ストリートと言えば、あのキューブカットの、ミクスチャNo79と並んで、所謂ドラッグストア・ブランドである。最もポピュラーで入手の容易な煙草であったという証拠だ。

当時のレベレーションの価格帯はわからないが、恐らくボンド・ストリートと同列に並ぶ商品の筈である。

一方、再現されたエピファニーはコーネルディールの丸缶。日本では販売されていない銘柄だが、同等品は¥3,800円という高級な部類の煙草だ。テイストは同じでも、当時のレベレーションよりも葉の質は良い物なのだと想像できる。

そうして考えるに、アインシュタインがどれほどのコダワリでこのレベレーションを常喫していたのか?甚だ疑わしくなって来る。そもそも、現代のように世界中のパイプ煙草をネットで取り寄せられたわけではない。ボンド・ストリートは好みじゃないが、どちらかといえばレベレーションの方が好きだ、という程度の事だったかも知れない。

それでも確実に言えるのは、アインシュタインはパイプ喫煙を愛していた、ということ。彼の有名な言葉に、次のようなものがある。

“I believe that pipe smoking contributes to a somewhat calm and objective judgment in all human affairs."

「パイプスモーキングは、あらゆる人間関係を、いくらか平穏に、そして客観的に判断する事に役立っていると、私は信じる。」

天才物理学者とパイプ、というと、「神の啓示(Revelation)」のような、いくぶん彼の才能を支えていたかの印象を持ちがちだが、真実はもっとごく普通の事だったのだ。彼がパイプの煙と香りの中に見ていたのは、異次元宇宙でも相対的な時空でもなく、ただ、優しくゆっくりと流れる、安穏とした人間的な時間、地に足の着いた寛ぎの世界だったのである。

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